陽、沈みし刻の物語
Wizardry Online 3周年を記念し、ちょっとした読み物をお届けします。
物語は、涙無しには語れない「三巨頭」の知られざる物語。
秋めいてまいりましたので、お茶を嗜みながらの読書をご堪能ください。

第四章 黄昏のシャーデ

(1)

陽が沈む。

ランタンに火をつけようとしたクロルドは、マッチが湿っていた事に気が付いた。

やむを得ず自分の鎧を何度か叩いて火花を散らす。と、ランタンからこぼれた灯油に引火し、自分の体に燃え移った。


(2)

陽が沈む。

ビーフシチューを作ろうと思ったスメルチは、常日頃シャーデが言っていた「料理はウマミよ」という言葉を思い出したが、ウマミというものがよくわからなかった。

そこで裏庭にいた馬を握り殺し、身体を雑巾のように絞り上げて垂れてきた汁をシチュー鍋に入れることにした。


(3)

陽が沈む。

ノインテーターがいつものように棺から起き上がると、凄惨なことになっていた。

まず火ダルマになったクロルドが走り回って、家のあちこちに引火。
台所では馬の悲鳴が聞こえ、スメルチが凄惨なことをしており、床一面が血の海だ。

「諸君、何をしているのだ・・・」

毎度の事とはいえ、あまりの状況にノインテーターは頭を抱えた。

「まず止まりたまえ。そして火を消せ」

駆けずり回るクロルドを止め、花瓶の水をぶっかけて消火する。このあたりは慣れたものだ。

「いい加減ランタンくらい付けられるようになりたまえ。そして食卓を飾る花を持ってくるがいい」

クロルドは頷いて外に出る。花壇を綺麗にするのはクロルドの得意分野だ。
その間に燃え広がった火をすべて消し飛ばし、新しいカーテンやシーツを広げる。

スメルチが作っているなにかの絞り汁はすべて捨て、馬の哀れな死骸を捨てに行かせる。

「なんで馬を絞っていたんだあの肉塊は・・・」

仕方なく牛肉に塩と胡椒をふりかけ、フライパンで焼き目を付けて、肉汁ごと圧力鍋へ放り込む。
にんじんとじゃがいもは乱切り、たまねぎはくし切りにしてまた圧力鍋へ入れる。先ほど使ったフライパンにグラニュー糖を入れ、焦がさないように注意しながらカラメルを作る。
続いてデミグラスソースは赤ワインと酢を入れて煮立たせ、これも圧力鍋へ入れる。別鍋でブロッコリーをボイルし、ホワイトソースも作っておく。
強火で加熱している段階で戻ってきたスメルチに命じる。

「このあと加圧ピンが上がったら弱火で15分加圧する。その後はピンが下がるまで自然冷却する。よく見ておくのだぞ」
「任された」

床をモップで掃除し、部屋の燈台に火を付けて回る。

「まったく、この程度のことも出来ずに主に仕えるとは・・・」

やっと戻ってきたクロルドは、小さな瓶に花を挿し、食卓に飾り付ける。
スメルチは大きな鍋を混ぜ続け、辺り一面にビーフシチューの濃い匂いが立ち込めている。

あとは女主人を待つばかりだ。

が、この世で最も麗しく、この世で最も邪悪な女主人は姿を見せない。

「ん・・・そういえば、シャーデ様はいかがなされた?」

ノインテーターが辺りを見回しながら食卓に着く。
彼のところにスープ皿はない。代わりにあるのはワイングラスと、血で満たされたボトルだけだ。

続けてクロルドも自分の席に座り、器用に首元の鎧の隙間にナプキンを差し込む。

「まだお姿は見ていない」

巨躯のスメルチが大きな調理鍋を持って現れる。

「ふん。随分と流暢に喋れるようになったではないか」

ノインテーターがどこか小馬鹿にしたように言うが、スメルチは表情を変えない。

「シャーデ様が日々改良してくれているからな。某は君たちと違って完成されていないから・・・」
「夜の貴族であるこの私を貴様達人造物と一緒にするな! 門番風情の機械人形と、死肉と砂で作った人造人間・・・こんな連中と対等の扱いとは、私も落ちぶれたものよな!」

ノインテーターが怒鳴るとスメルチはそれ以上の口を利かない。そうすることが最も平和だと学習しているからだ。

「あら、お揃い?」

声だけが現れ、続けて実体が主の席に出現する。

「シャーデ様、空間転移は地場を狂わせますのでお控え頂きたい」

ノインテーターが眉間を抑えながら言うが、金髪の美女は薄く笑うだけだった。

「うん、いい匂いね。さすがスメルチ。料理の腕は大したものよ」
「お褒めに預かり光栄です」
「うん。なんでそんな堅苦しいしゃべり方になっちゃったのかしら。まぁいいわ。クロルドも掃除が行き届いているわ」
「******」
「会話機能がないって不便よねぇ・・・で、ノインテーター。あなたはなにをしていたの?」
「は?」
「寝てたの? 寝てるわよねぇ。まだ夕方だったし? まったく、他の二人に比べて役立たずねぇ」

ノインテーターの額に怒りの血管が浮いた。

『人間風情が・・・いつか見ておれよ・・・』

「さ、ご飯にしましょう」

シャーデが宣言すると、スメルチはビーフシチューをそれぞれの皿に注ぎ始めた。


(完)